酩酊 星野文月

ばんぶんぼん!は作家の小原晩、星野文月とBREWBOOKS尾崎大輔の3人によるリレー連載です。3人で話してみたいテーマを持ち寄って、自分の思うこと、ふたりに聞いてみたいことなどを書いていきます。連載のタイトルは3人の名前や愛称をくっつけました。


文・写真・題字:小原晩/星野文月/尾崎大輔
キービジュアル:モノ・ホーミー

ふたりと西荻窪で飲んだとき、楽しかったな。私たちのうしろには、声の大きな男女の集団がいて、総じて声量がちいさな私たちは頑張って会話をしましたね。

私はふたりと初めて飲むという状況に少なからず緊張していて、どれくらい飲んだのかは覚えていないのですが、後半は自分の輪郭がぼやぼやとしてきて、ふたりともっと仲良くなりたいな!という気持ちが湧いてこの連載をやらないかといきおいよく提案をしたような記憶があります。

 そう、それで、酩酊。普段、松本という場所で暮らしている私には終電の概念がすっかり無くなっていて、ふと時計を見ると夜中の2時でした。はっきりと「終わったな」と思いました。それは電車が終わった、ということと、帰るすべがなくなった、という意味です。ふたりに迷惑をかけるわけにも行かないし…と思い、笑顔で手を振ってばらばらと別れた瞬間に気がほどけたのか、私の世界が回り出しました。最後に見たのは駅前のカラオケ館の看板の光。

そのとき、私のiPhoneが鳴り、「位置情報送って」という文字が浮かび上がるように目に入ってきました。親指でLINEの「位置情報」というボタンをつよめに押すと、数分後には目の前によく知っている顏、姿の青年が原チャリに乗ってあらわれました。ヘルメットを渡されて無言でかぶり、私はうしろに乗りました。

彼は修ちゃんといって、私が半年くらい前までお付き合いしていた、いわゆる元恋人というか、とにかく親しくしていた(している)人で、今でも仲が良いので東京に行く際には家に泊めてもらっていました。その時も彼の家に泊めてもらっていたのですが、「帰宅する」という連絡をいつまでもしてこない私にたいして、久しぶりの東京で楽しくて飲み過ぎ、酔っ払い、西荻窪駅付近で終電を失くして帰れなくなっているのだろう、という見事な予測をして夜中にバイクで迎えに来てくれたという次第でした。

彼とは約5年間お付き合いをしていたのですが、私の行動パターンや、思考、癖を本当によく知っていて、責めるでも諭すわけでもなく「ちゃんと連絡しなきゃだめだよ」と、ひとこと言いました。

それから私たちは夜中の環七道路をスピードがあまり出ないスーパーカブに乗って走りました。私は、迷惑をかけて申し訳ない気持ちと、恥ずかしさ、彼はどうしてこんなに優しい人なのだろう、どうして私たちは別れることを選んだのだっけ…というようなことがあたまのなかに浮かんではどこかへ流れて去っていきました。

走っていると夜風がとても気持ち良かったけれど、自分のせいでこんな状況になってしまった申し訳なさからそれを言い出すことができず、私は黙ったままうしろで流れる景色をただ見ていました。

東京に居た頃はよくこうやってバイクの後ろに乗せてもらっていたなあ、とか、マフラーのところに足をくっつけてやけどした痕がぜんぜん消えないな、とか、そんなことを私は考えたりしていました。

彼は、あのとき一体何を考えていたのだろう。
聞いてみたいような、やっぱり聞きたくないような気持ちがあります。

 翌日、二日酔いで泥のようになった私が「昨日はごめんなさい、ありがとう」と言うと、彼は「君への親切心じゃないで、心配をしただけや」と言いました。

今でも私は、その言葉の意味を考えています。

星野文月 / Fuzuki Hoshino

作家。著書に『私の証明』『プールの底から月を見る』など。me and you little magazine & clubにて「呼びようのない暮らし」を連載中。