酩酊 尾崎大輔

ばんぶんぼん!は作家の小原晩、星野文月とBREWBOOKS尾崎大輔の3人によるリレー連載です。3人で話してみたいテーマを持ち寄って、自分の思うこと、ふたりに聞いてみたいことなどを書いていきます。連載のタイトルは3人の名前や愛称をくっつけました。


文・写真・題字:小原晩/星野文月/尾崎大輔
キービジュアル:モノ・ホーミー

もうずいぶん前のことだけど、吉祥寺の七井橋通りに素敵なガレット屋さんがありました。マルイの横の、井の頭公園に向かうあの賑やかな通りです。その店で僕はグラスワインの赤を頼んだんですけど、出てきた赤ワインは今まで飲んだどんなワインとも違っていて、とてもびっくりしました。よく酒場でひと仕事終えた海賊たちがガハハと笑いながら木製のジョッキになみなみと注がれた葡萄酒を飲んでいますよね。あれは、その葡萄酒の味でした。間違いない。海賊はこれを飲んでるんだ。そう思いました。「このワイン美味しい」と言うかわりに「ガハハ!」と笑いたい。そんな歓喜の味でした。食べたガレットのことは忘れてしまったけど、そのワインのことは今でもたまに思い出します。銘柄を控えておいて後で検索してみたんだけど、全然ヒットしなかったな。どこかで入手できるのならそうしたかったけど、それは叶いませんでした。思い出すたび記憶は脚色されて、実際とはかけ離れていってると思います。僕はもうそのワインを、たとえ再び巡り会えたとしても、ほんとうの意味では二度と味わうことができない。などと書きながらふたりの文章に釣り合う話はないかな〜と考えを巡らせているけど、ないね。ない!

3人で飲んだ日、楽しかったです。良い時間でしたね。僕は人に話題を提供したり会話の取っ掛かりをつくったり、そういったことをするのが苦手というか、そういう役割をまるっと人に預けてしまうんです。やる気がない。何かが立ち上がるまでは、お品書きをじっくり眺めたり、ただ飲んだりしてしまいます。よくないよね。そんななので、ふたりがパカパカと良い感じにジョッキを空けていくのを見て、よくわかんないけど少し安心した記憶があります。
文ちゃんが「3人で連載をしよう」と提案してくれて、どんなふうにするかあれこれ案を出し合いましたね。閉店の時間になると文ちゃんは「連載のことだけは今日決めちゃおう!」と言い、我々は2軒目に入りました。物ごとを率先して進めてくれる文ちゃんに僕はとても感謝しています。その他にもいろんなことを話したけど、ほとんど忘れてしまいました。何時間も膝を突き合わせて話していたはずなのに、何にも思い出せない。こわいな酩酊。帰宅した後は「楽しかったな〜」と余韻に浸りつつ缶ビールに手を出し、ほどなくして寝落ちしました。

それなりを超えて酔っ払うとどうなるか?書ける範囲……だと物体移動です。物の位置が変わります。朝起きると観葉植物が洗面台に置いてあったり、印鑑が冷蔵庫に入っていたり、履いていたはずのパンツが遠くに落ちていたりしますね。不思議です。
ビールの残りは豚かたまり肉のビール煮(リュウジのバズレシピ)に使うと罪悪感が消えるしとっても美味しいのでおすすめです。

尾崎大輔 / Daisuke Ozaki

1982年生まれ。2018年にBREWBOOKSをオープン。

だいたい2時半くらいに寝ます。