ばんぶんぼん!は作家の小原晩、星野文月とBREWBOOKS尾崎大輔の3人によるリレー連載です。3人で話してみたいテーマを持ち寄って、自分の思うこと、ふたりに聞いてみたいことなどを書いていきます。連載のタイトルは3人の名前や愛称をくっつけました。
文・写真・題字:小原晩/星野文月/尾崎大輔
キービジュアル:モノ・ホーミー
母と父と兄と私は四人家族で、いまはみんな、八王子の一軒家、きっと天国、郊外の遠い街、杉並区の八階、とばらばらに住んでいて、それぞれ、いっしょうけんめいやっていることと存じます。
私、必ず泣いてしまうジャンルというものがあって、それは「家族」。どれだけくだらなくても、つたなくても、演出が過剰でも、芸術的でも、言葉なくとも、家族の感じがそこにあればすごく泣いてしまう。とめどなく泣いてしまう。どうしてなのかまったくわからないのだけれど、小さい頃からずっとそう。
血なんて、血にしか過ぎません。というようなことも思うのだけれど、その血の、逃れられなさ、自らの運命が響き合うその恐ろしさをふつうの顔してなぎ倒す、家族愛という単純にわんわん泣いてしまう。
逆にともだちものとか、スポーツものとか、恋愛ものとか、動物ものはぜんぜん泣いたりしない。この差はなんだろうと思う。涙と家族がどうしてこうもつながるのか、私は未だわからない。
僕には家族がいません、と書く尾崎さんが「家族」というテーマで書きたいと思ったのはどうしてだろうと夜の四ツ谷を歩きながら考える。尾崎さんは「家族」というものに含まれるどんなことに、むきあいたいのだろう。知りたいのだろう。ふりはらいたいのだろう。それとも、ただ書いてみたいのだろうか。そのどれもがちがうかもしれないけれど、家族と一人、地元と東京、普通と欠損、子どもと大人、いくつものむずかしいことをのりこえて生きているのだなあと私は普通のことしか考えられずに、けれどやっぱり、つらかったねとか、そういうことはなにも知らないのだから言えないし。
昔、働いていたお店では社長が従業員のことは家族だと言っていて、社長のことをお父さんと呼んでいたのだけれど、あれはいったいなんだったのか。
家族の距離っていうのは、近すぎる。全員にとって安心安全のすこやかな距離で存在できる家族なんている? って思ったりもするけれど、ときどき他人の家庭のことを聞いてみたりすると、ほんとうにすばらしいデクのぼうみたいな家庭というのもあって、そういう家族のことを社長は指していたのだろうか、と思う間もなく、でもあの人は従業員のことを殴ってたなと思い出して、やっぱり間違ってる、正しいわけはない、と偏った思い出にて思い直す。
家庭ほど恐ろしい場所はないと思う。でもうつくしく思ってしまう面もある。
小原晩 / Ban Obara
2022年初のエッセイ集となる『ここで唐揚げ弁当を食べないでください』を自費出版。2023年「小説すばる」に読切小説「発光しましょう」を発表し、話題になる。 9月に初の商業出版作品として『これが生活なのかしらん』を大和書房から刊行。