好きなチェーン店 星野文月

ばんぶんぼん!は作家の小原晩、星野文月とBREWBOOKS尾崎大輔の3人によるリレー連載です。3人で話してみたいテーマを持ち寄って、自分の思うこと、ふたりに聞いてみたいことなどを書いていきます。連載のタイトルは3人の名前や愛称をくっつけました。


文・写真・題字:小原晩/星野文月/尾崎大輔
キービジュアル:モノ・ホーミー

私が暮らしている長野県の松本市というところには、すてきなお店がたくさんあります。
個人や家族で経営しているちいさなお店が多くて、営んでいる人の個性や美学を感じる魅力的なお店が街のなかにぎゅっと点在している。遠方から友だちが来てくれたときには、紹介したいところに困らないし、どこも徒歩圏内で移動できて、自然も近い。
暮らしやすくていいところにいるなあ、と日々思いながら過ごしています。

さて、私が今この文章を書いているのは近所にあるサイゼリヤの窓際の席です。
移住して三年が過ぎ、なんだかチェーン店に行く頻度が高くなりました。
もちろん個人のお店にも行くこともあるけれど、人に気を遣わないでいられる環境ということが自分にとってはかなり大きな意味を持つみたいで、原稿を書いたり、本を読んだり、お店に長時間居ることが多い私は、なるべく人の目を気にしなくてもいい空間に身を置きたいという気持ちを優先することが多くなりました。

私はチェーン店にいるときの自分の匿名性にすごくすごく安心する。少し歩けばすぐ知人に遭遇するような、あまり広くない街で暮らしているからこそ、たまにどこまでも透明な存在になりたいと思うときがあって、チェーン店の中にひとりでいるときは、かなり安心しきった状態で時間を過ごしていると思う。
自分が自分として認識されていることってうれしさもあるけれど、たまにしんどいと感じるときもないですか……?

私がよく行くチェーン店は、コメダ珈琲、ロイヤルホスト、サイゼリヤです。
東京へ行ったときには、松本にないチェーン店のフレッシュネスバーガー、バーミヤン、丸亀製麺あたりに目を光らせながら歩いています。

今回のテーマを「好きなチェーン店」としたけれど、私は好きなチェーン店について書きたかったというよりも、チェーン店という存在に非常に助けられている、ということを書きたかったのだと今わかりました。

だけどテーマに沿って好きなお店を挙げるとしたら、丸亀製麺が好きです。
チェーン店でありながら、実直なおばあちゃんみたいなあの佇まい。うどんを茹でている人の顔に湯気がたくさんあたって、肌がふかふかに見えるのがたのしい。イカの天ぷらが柔らかくておいしい。何よりうどんがおいしい。
丸亀製麺には集めるとトッピングが安くなる「うどん札」というサービス券があって、毎月旧暦が印字されているのだけど、7月になると「文月」のうどん札が配られます。
それが自分のことを指しているわけではないと知りながらも、私は勝手にうれしくなって、うどん札を集めるべく、せっせと丸亀製麵へ足を運んでしまう。

ふたりのチェーン店事情はどんな感じでしょうか。よく行くお店や、好きなお店を知りたいです。

星野文月 / Fuzuki Hoshino

作家。著書に『私の証明』『プールの底から月を見る』など。me and you little magazine & clubにて「呼びようのない暮らし」を連載中。