徒手空拳 尾崎大輔

ばんぶんぼん!は作家の小原晩、星野文月とBREWBOOKS尾崎大輔の3人によるリレー連載です。3人で話してみたいテーマを持ち寄って、自分の思うこと、ふたりに聞いてみたいことなどを書いていきます。連載のタイトルは3人の名前や愛称をくっつけました。


文・写真・題字:小原晩/星野文月/尾崎大輔
キービジュアル:モノ・ホーミー

新卒で入った会社を転職しようとしていた頃。昼過ぎに早退して、駅のロッカーに預けておいたスーツと革靴を回収して、トイレで着替えてから採用面接に行っていました。その時勤めていた会社は私服だったから、面接があるからといってスーツで出社するわけにはいかなかったんです。昼下がりの空いた電車に乗っていると、なんだかコースを逆走しているような、向かい風が吹いているような、反対の方向に向かっている感じがして、鮭の川上りが頭から離れなかったのを覚えています。転職活動なんて沢山の人が経験することだけど、みんな同じような気持ちでやってるのかな。それとももっと違う気持ちでやっているのかな。

店を始める前も、働きながらあれこれ準備を進めていました。区の創業支援センターみたいなところに相談しに行ったりとか。ここでも「鮭だな」と思いました。「ひとりだな」とも思った。心細さと抵抗感と、清々しさ。新しいことを始める時、今までの経験を活かせる新しいことと、活かせない新しいことがあって、僕は後者を選択をしていて、賢い選択ではない、と思う。でもなんか、そうしたい。まっさらの状態から始めたい。身一つで試したい。Lv.1から始めることの清々しさを一身に浴びたい。それが現状への危機感の裏返しに過ぎないとしても。

「あぶなっかしくて見てられない」とか「かわいそうに…おかしくなっちゃったんだね」と思った人もいるのかもしれない。「借金まみれの廃人になるよ」は実際に言われました。そんな引き止め方ある?笑、と思ったけど、ま、その可能性、たしかにあるね!資金繰りとか経理とかも全部一人でやらないといけないんだよ大変だよみたいなことを言われて、なんもかんも全部自分でやってみたいんですって返した記憶があります。今は、経理とかもうほんと向いてないから人に頼みたいですけど。

周りからどう見えていたかはともかく、自分としては、清々しさの中にいました。徒手空拳を楽しんでいた。もちろんその時の自分に言いたいことは山ほどあるけども。「おい、勧められるがままに保険に入るな」とか。

尾崎大輔 / Daisuke Ozaki

1982年生まれ。2018年にBREWBOOKSをオープン。

だいたい2時半くらいに寝ます。