徒手空拳 小原晩

ばんぶんぼん!は作家の小原晩、星野文月とBREWBOOKS尾崎大輔の3人によるリレー連載です。3人で話してみたいテーマを持ち寄って、自分の思うこと、ふたりに聞いてみたいことなどを書いていきます。連載のタイトルは3人の名前や愛称をくっつけました。


文・写真・題字:小原晩/星野文月/尾崎大輔
キービジュアル:モノ・ホーミー


なにかをはじめるときはみんな、としゅくうけん、なのではないかなとおもいます。なにもない、頼れるひともいない、お金がない、わからない、しらない、できない、ない、ない、ない。
だからわたしは、何かをはじめるとき、誰にも言わずにはじめます。まちがっても宣言しない。世の中には、夢は口に出したほうが叶う、というひともいますが、わたしにとってはそうじゃありません。
夢や目標を口にしたところで、できなさそう、という顔をされるのがオチであるからです。というか、そういうふうにわたしが勝手に感じてしまうから、そうすると勝手に自信をなくすから、自信を無くすと勢いが削がれるから、勢いはときに必要だから、言わないのです。できる限り、ひみつですすめます。
だから小説なども、どういう話を書くつもりなのか、ということを編集者さんに説明するのが苦手です。ぎりぎりまで話したくないんです。
つまらなさそう、という顔をされたら、つまらなさそう、というメールが返ってきたら、自信をなくし、書きたいきもちが、よぼよぼします。それか、あまのじゃくのほうが発揮されて、どうしても書きたくなるかもしれないです。 

なにも持っていない状態が、わりに好きです。人生の大概がそんなふうに過ごしてきたような気がします。ずっとなんもない。なんでなんもないのか、ばかだからだろうか、ほんとうになんもないのか、あったのじゃないか、ないと言っては誰かに失礼なんじゃないか、このときにいう武器や、道具や、資金や、地位は、誰を、何を、指すのだろう。
でも、手ぶらで歩くのはすきです。気持ちがいいからです。とつぜん、走ったり、跳んだりしても邪魔にならないし、長く歩いてもつかれにくいからです。
両手はあいてるほうがすきです。自由な気がします。何かをもっていなければならないのは、なんというか、いまの自分には重すぎます。 

小原晩 / Ban Obara

2022年初のエッセイ集となる『ここで唐揚げ弁当を食べないでください』を自費出版。2023年「小説すばる」に読切小説「発光しましょう」を発表し、話題になる。 9月に初の商業出版作品として『これが生活なのかしらん』を大和書房から刊行。